都留市役所生涯学習課の「隠れた調整業務」のAIでの解決 — 年間130件の「ふれあい講座」調整負荷と働き方改革
はじめに
都留市役所では、職員のAIリテラシー向上と庁内ガイドライン策定、試行導入を目指し、2025年8月と9月に2回にわたり生成AIワークショップを実施しました。参加者は高い満足度と「業務に活かしたい」という前向きな意向を示し、「業務活用への意識転換」が生まれました。
本記事では、ワークショップ後に実施した、参加者である生涯学習課の加々美氏への課でのAI活用可能性のヒアリング内容をレポートします。生涯学習課は、高度な調整業務と勤怠管理のサポートという課題を抱えており、AIによる「仕組みそのものの改善」に強い期待が寄せられています。
加々美氏は、ワークショップ参加後利用してみた無料版のChatGPTについて、プライベートではほぼ毎日使っているくらい利用しており、ちょっとした質問や課題解決に有用性を感じていました。
生涯学習課のコア業務と「複雑な調整」の重い負担
生涯学習課の業務は多岐にわたりますが、特にAIによる効率化の必要性が高いのは、市民団体と庁内職員の講師をマッチングさせる「ふれあい講座」の運営と、職員の働き方に関するルールの周知です。
(1)年間130件に及ぶ「ふれあい講座」の調整業務
「ふれあい講座」は、市民団体からの要望に基づき、市職員が講師として出張する制度です。
1. 業務量の増大:団体活動の活発化に伴い、件数は急増しており、年間で約130件に達しています。これは営業日で考えると、ほぼ2日に1回は何かしらの調整作業が発生している計算になります。
2. 煩雑な事務作業:申請は紙で届くことが多く、申請内容を職員が手作業でExcelに入力・集計し、その後、全庁の講師担当課へ調整の上、申請団体へ受託通知と、担当課へ派遣依頼を出すという流れを、事務局として生涯学習課が担っています。
3. 調整役の負担:この一連の調整作業(講師の調整、団体への通知、ダブルチェックなど)は、月で換算すると、担当職員の約1週間分の時間を費やしていると推測されています。紙の書類回し(決裁)や、団体側との急なキャンセルや日程変更の電話対応(イレギュラー対応)も多く、事務処理の煩雑さが課題となっています。
(2)複雑な勤怠管理ルールと職員への周知負担
会計年度任用職員などの勤怠管理や、職員の休日出勤・振替休日取得に関するルールの周知も重要な課題です。特に放課後こども教室などの業務では土日開催があり、代休や振替休日の取得ルールが複雑になりがちです。職員が市の給与条例や就業規則を自分で読んでも理解しづらいという現状があり、都度、職員担当に問い合わせが発生しています。
生成AIによる効率化の具体的なアイデア
加々美さんからは、これらの課題に対して、AIを単なる文書作成ツールとしてではなく、業務プロセス全体を効率化する仕組みとして活用したいという具体的な提案が出されました。
(1)ふれあい講座のワークフロー自動化
年間130件の申請、調整、連絡の流れ(フロー)をシステム化することが最も大きな効率化につながります。
• 申請・連携の自動化:団体からの申請をオンラインフォーム(LINEなども検討)で受け付け、データが自動的にExcelに書き込まれる。そこから担当課へ調整メールが飛び、担当課がOK/NGをシステムで回答し、その結果が申請団体に自動で返信される仕組みです。
• リマインド機能:講師担当者が依頼を忘れないように、講座実施日の前にリマインド通知を自動で送る機能も求められています。
• データ活用:過去の受講団体、受講講座、満足度などの情報を蓄積し、同じ団体が同じ講座を重複して受講していないかをチェックするなど、事務局がやるべき質の高い調整業務に活用することも期待されます。
(2)働き方改革を支える知識ボット(ローカルRAG)
市の給与条例や就業規則などの内部規定をAIに読み込ませ、職員向けの質疑応答ボット(チャットボット)として活用することが提案されました。
• 質問への即時回答:「土曜日に2時間だけ出勤したらどうすればいいか?」といった、複雑な代休や振替休日の取得に関する個別具体的な質問に対して、AIが規則に基づいた回答を提示します。
• 負担軽減と要望集約:これにより、職員担当への問い合わせ負担が軽減されるほか、「フレックスにしたい」といった職員の要望を集約でき、規則の見直しに向けた根拠データとして活用できる可能性もあります。
(3)プレゼン資料や講師紹介文の作成
加々美氏は、試験導入中のAIを用いて、来月予定されている放課後こども教室に関する県の発表資料のアウトライン(話の流れなど)を短時間で作成できた経験を挙げています。

現場実装に向けた最大の課題
AIの活用意向が高い一方で、現場実装には課題が残っています。
(1)ふれあい講座のシステム化の壁
ふれあい講座の業務効率化は、AI単体で解決できる問題ではなく、システム開発(ワークフローのシステム化)が必要です。これには予算が必要であり、人件費削減効果を明確にして提案する必要がありますが、現状、この業務にどの程度時間がかかっているかの実態調査(工数算出)ができていないことが課題です。
(2)ローカル環境の必要性
職員の働き方に関する規則(給与条例など)や、庁内のマニュアル、過去の引継ぎ書など、外部に公開されていない内部情報(ネットで調べても拾えない情報) を学習させ、活用するためには、外部インターネットに情報を渡さないローカル環境(庁内RAG)の整備が不可欠です。
その他の活用アイデアと成果
(1)知識検索の効率化
庁内のネットワークドライブはファイル検索がタイトル中心で、中身(文書データ)まで掘り下げた検索が困難です。異動の多い自治体では、マニュアルや過去の引き継ぎ書を検索しやすくする庁内RAGの導入は、職員が「探す時間」を削減し、生産性を向上させるために全庁的に求められています。
(2)会議・イベント記録の効率化
会議録やイベント(市民大学など)のパワーポイント資料をAIに読み込ませ、要約を作成させることで、後任者が短時間で内容を把握できるようにする活用も試みられました。ただし、専門用語や略語が多い正式な会議録の作成においては、AIの文字起こしや要約の精度がまだ完全ではなく、大幅な時間短縮には繋がっていないとの報告もありました。
まとめ
生涯学習課のヒアリングは、AI導入が、市民サービスを支える裏側の複雑な「調整業務の仕組み化」、そして職員の「働き方改革」に不可欠であることを示しました。
特にふれあい講座の調整業務(年間130件)をシステム化し、年間で約1ヶ月分の工数を削減できる可能性は非常に高く、これは職員が市民サービスや新たな企画に時間を再投資できる資源となります。
当社としても都留市様とふれあい講座のシステム化や、内部規定を読み込ませた知識ボット(ローカルRAG)の導入など、具体的な実装に向けて支援できることの提案を進めたいと思います。