年間1,900時間の業務削減へ──生成AIに相談記録を任せられるのか?都留市長寿介護課ヒアリングから見えた実装の壁と可能性
業務管理ヒアリング

年間1,900時間の業務削減へ──生成AIに相談記録を任せられるのか?都留市長寿介護課ヒアリングから見えた実装の壁と可能性

はじめに

都留市役所では、職員のAIリテラシー向上と庁内ガイドライン策定、試行導入を目指し、2025年8月と9月に2回にわたり生成AIワークショップを実施しました。参加者は高い満足度と「業務に活かしたい」という前向きな意向を示し、「業務活用への意識転換」が生まれました。
本記事では、ワークショップ後に現場の具体的な課題と活用の可能性を探るため実施した、長寿介護課・山本氏へのヒアリングの内容をレポートします。長寿介護課の日常業務の中に、AI導入による大きな業務改善のフックがあり、同時に、根深い課題も存在することが見えてきました。

長寿介護課のコア業務と「記録入力」の重い負担

長寿介護課の主要な業務は、介護保険の保険者としての認定調査や、地域住民からの介護に関する相談対応(電話、窓口、訪問巡回)です。保健師や社会福祉士といった専門職の方が、日々の相談に対応しています。

(1)日常的な相談対応とその頻度

相談件数は非常に多く、訪問や窓口対応、電話等すべてを含めると、担当者は「多分1日に何件も記録を書いている」と述べています。業務の中には訪問も多く、「ほぼほぼ自席にいない」ことも珍しくありません。

(2)記録作成の重労働

相談対応後、最も時間的負担となっているのが「記録入力」です。

1. 手書きメモの発生: 現地や窓口では、まず紙の帳票などに手書きで記録を書き、持ち帰ります。

2. 基幹システムへの再入力: 帰庁後、その手書きの記録を、個人情報が入っている基幹システムへ、改めて手入力で打ち込み直す作業が発生します。

3. 全員の業務負荷: この記録入力作業は、対応した職員がそれぞれ行っています。

この入力作業は、年間で見ると膨大な時間となります。年間約3,800件(電話・窓口・訪問)の相談対応があり、仮に1件あたり10分から30分を記録入力作業に要すると仮定すると、年間で約630時間から1,900時間がこの記録入力に費やされている可能性が示唆されました。

生成AIによる効率化の具体的なアイデア:録音と要約

この重い記録入力作業を効率化するために、生成AIの活用が期待されます。

(1)最も実現したいこと:音声録音からの自動記録作成

山本氏から出た具体的な活用アイデアは、相談時の会話を録音し、そこからAIが記録を作成・要約するプロセスです。

特に、相談記録の項目や内容はある程度決まっているため、AIが文字起こしを行い、内容を要約し、基幹システムに入力するフォーマット(例:ワード形式)に近い形で出力できれば、大幅な業務効率化につながると期待されています。

(2)期待される効果

記録入力の時間を短縮できれば、溜まってしまう未入力業務の解消や、事件対応などで業務が集中した場合の対応力強化につながります。また、「時間的なコストが削減される」ことで、職員が本来もっと時間を割きたいと考えている住民へのきめ細やかな対応や、大学連携の介護予防に関する研究成果を活用した企画推進など、より住民福祉向上のためになる業務に時間を再投資できる余裕が生まれます。

現場実装に向けた最大の課題:「セキュリティと個人情報」

活用の期待が高い一方で、現場実装には大きな壁が存在します。それは、個人情報の取り扱いとセキュリティです。

(1)個人情報保護の重要性

長寿介護課の業務は、介護の相談や認定など、極めて重要な個人情報を取り扱います。AIに情報を入れることについて、「個人情報が多いので取り扱いについてどうするか」が懸念されています。

(2)システムの現状と課題

都留市役所では庁内専用のAIツールを試験導入していますが、このシステムであっても、個人情報(音声データを含む)をどこまで扱えるかという手続き的な問題や、データの蓄積・学習に関する懸念が残ります。

(3)解決への道筋

当面、外部にデータを漏らさないための現実的なツールとして、ボイスレコーダーの活用が検討されています。録音データを取り込み、庁内システム内、もしくはローカル環境でのLLMで処理できる環境を構築できれば、「AIが要約するという部分のセキュリティが担保されるのであれば多分導入できそう」との見解です。

このセキュリティガイドラインや具体的な運用方法については、庁内の推進担当者との相談が不可欠と認識されています。

その他の活用アイデア

長寿介護課では、相談記録以外にもAI活用のニーズがあります。

チラシ作成・説明文作成

市民向けの分かりやすい説明資料や広報文、学会資料(ポスター形式、まとめた文章など)を頻繁に作成しており、これらの原案作成や文章構成にAIの活用が期待されています。

テキスト処理の優位性

テキストで完結する業務(説明文の作成、データの集計・分析の示唆出し)については、要約や構成においてAIの精度が高く、非常に有用であるという認識が得られました。

まとめ

長寿介護課のヒアリングを通じて、都留市役所のAI導入は単なる効率化に留まらないことが再確認されました。

AIによって日常の記録業務を効率化し、削減された時間を「人・組織・地域に再投資できる資源」として活用すること、具体的には、住民サービスの強化や、職員のスキルアップ、新たな企画の立案に振り向けることが、都留市の目指す未来の働き方です。

現在、現場の具体的な活用意向が示されたことで、都留市は「試作・実装フェーズ」へと進んでいます。最大の課題であるセキュリティと個人情報保護の壁をクリアし、長寿介護課の業務効率化を実現できるよう、支援の提案をしていく所存です。

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